「鈴森商事の鈴木さんですよね?」
「ええ」

えっと、見覚えがあるんだけれど・・・

「海山商事の川本です」

海山商事って・・・あのセクハラ接待の、

ああああ。
わかった。

「あなた、あの時の」

「はい、その節は申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる。

この人はあの接待の時に同席していた担当者。
担当になったばかりで、ほとんど初対面だったから顔を覚えていなかった。

「一緒にいながら部長を止めることができず申し訳ありませんでした」
「いえ」
悪いのはあの部長だし、私も不用心だった。

「鈴木さん、今日はお一人ですか?」
「え、ええ」

「僕も1人なんです。よかったら」
そこまで言って川本さんの声が止った。

「やっぱりイヤですよね。あんなことがあった人間と飲みになんて行けませんよね」
「いえ、、そんなことは・・・」
こういう言い方をされると無碍には断れない。

「良かったら、行きませんか?」
一体いくつだろうと思ってしまうような屈託のない笑顔。

「あの、無理にとは言いません。僕は、鈴木さんに酷いことをした人間の1人なんですから」

「そんなこと・・・川本さんは知らなかったんですよね」

確か後になってそんな説明を聞いた気がする。

「ええ。部長はワンマンな人でしたし、『良いから、お前はもう帰れ』って言われて逆らうことができませんでした」
「そうですか」

そう言う人ってどこの会社にもいるものね。
まあ、犯罪はダメだけれど。

「近くの居酒屋とか、どうですか?」

まあ、人の多いところなら平気かな。

「良いですよ」
今日は私も飲み仲間が欲しかったから。

「行きましょう」

近くの大衆居酒屋を指さされ、
私もついていくことにした。