8時を回って、私は会社を後にした。
兄さんから何件もの着信が残っていた。
でも今は無理。
完全無視を決め込んで、携帯をカバンの奥にしまった。

今までずっと会社勤めをしてきて、こんなに長い一日と感じたことはなかった。
どんな失敗をした時よりも、部長に怒鳴り飛ばされた時よりもつらかった。
みんな遠くから私を見ているだけで小熊君以外は声もかけないし、仕事も回ってこない。
それでも手持ちの仕事を片付けながら業務をこなした。

この先どうなるんだろう。
今までみたいに何かあった時に助け合える同期もいないし、社長も娘ってバレた以上周りの目だって違ってくるだろう。

そうだ。
夕方、可憐ちゃんから携帯にメールが来ていた。

『一華さん。メールですみません。突然のことにただ驚いています。ほかの先輩たちは一華さんがみんなを騙していたって言っていますけれど、私はそうは思っていません。ズルをする気になればもっといっぱいできたのに、一華さんが他の営業の人と同じように頑張っていたのを私は知っていますから。でも、教えてほしかったです。今は先輩たちがうるさくて声がかけられませんが、噂なんてすぐに消えますから気にしないでください』

本当なら可憐ちゃんに直接謝りたい。
会社での友人が多くない私のとって唯一心許せる友人だったのに、こんな形で裏切ることになるなんて。自業自得とは言え、後悔の思いしかない。

『黙っていてごめんね。落ち着いたら食事に行きましょう。その時きちんと話すから』
私の誘いに乗ってくれるかもわからないけれど思いながら、返事を送った。

可憐ちゃんにはちゃんと話そう。
いつになるかはわからないけれど、もう嘘をつくのはやめようと私は決心した。