月曜日。
社内は衝撃に包まれた。
鷹文退職のニュースは朝のうちに伝わり、みんなが口々に噂を広げた。

「ねえ一華さん、本当に課長は辞めてしまうんですか?」
可憐ちゃんもなんだか元気がない。

「そうね」
「何でですか?」
「うーん、色んな事情があるのよ、きっと」

「私、課長のこと好きだったのに」
がっかりですと含みを持たせる。

そりゃあね、このタイミングで辞めれば逃出したように見えるだろう。
でも、鷹文だって好きで退職するわけではない。
せめて気持ちよく送り出してあげたい。でも、無理かな。

「実家の仕事をどうしても継がないといけなくなったんだって。仕方ないよ」

「でも・・・」
まだ納得できない顔をした可憐ちゃん。

その気持ちはフロアのみんなが一緒だった。
鷹文は課のリーダー。
みんな彼を信頼し、尊敬していた。その分裏切られた気持ちも強い。
予想はしていたけれど、空気は悪くなってしまった。

どうしたものかと思っていると、
「みんなちょっと聞いてくれ」
部長が声を上げた。

一斉にみんなの視線が集まる。

「髙田課長のことは聞いたと思うが、今月一杯で退職することになった。みんな思うところはあるだろうが、あいつも苦しんで出した結論だ。笑って送り出して欲しい」

いつもの部長とは違う穏やかな口調に、驚いた。
しかし、この後もっと驚くことが起きた。

「失礼します」
廊下の方から聞こえてきた声。

それはよく知っている声で、でもここで聞くはずのない声だった。

う、嘘。
入ってくる人を見て固まった。