トントン。
「鷹文です」

「入りなさい」

重厚なドアを開け、壁一面を本意囲まれた書斎に足を入れた。

机から頭を起こし、俺を見る親父。
確か、46、いや7だったかなあ。
とても30前の息子がいるようには見えない。

「帰ったのか」
相変わらず難しそうな顔。

「俺が帰らなければ、鈴森商事はつぶれてしまいますから」
嫌みを込めて言ってみた。

「そこまでするつもりはない」

どうだか。
すでにかなりの損を出しているはずだ。

「これで、鈴森商事から手を引いてくれますね」
そのために帰ってきたんだと、主張した。

「ああ」
「約束ですよ」

たとえ口約束でも反故にすることは許さないと、念を押した。

「随分と本気だな」
不思議そうに俺を見る親父。

「俺が6年も働いた会社です。愛着だってあるし、守りたいと思っても不思議ではないでしょう」

少なくとも、今回の騒動の黒幕が親父だったことに俺は怒っている。

「自分の息子を6年も面倒見てくれた会社に、感謝もせずによくもまああんな酷いことができましたね」
言っているうちに、語気が強くなってしまった。