「お帰りなさい鷹文さん」
「帰りました、お母さん」

駆けよるわけでも、抱きつくわけでもなく、どことなくよそよそしいのが俺の母親。
根っからのお嬢様だ。

「元気そうですね」
「はい」

最後に会ったとき、俺はボロボロだったから。

「心配したんですよ」
そっと手を重ねられ、目から涙が流れるのが見えた。

「すみません」

母さんだって母親なんだ。
一人息子がおかしくなって、心配しないわけがないんだよな。

「帰ってきてくれて、よかった」
ハンカチで目元を押さえ肩をふるわせる。

「心配を掛けてすみませんでした」

俺の方から近寄り、そっと抱きしめた。

「鷹文さん」
困ったように俺を見る母さん。

子供の頃、母さんは俺が嫌いなんだと思っていた。でも、違ったんだな。

「大きくなったのね」
随分と場違いなことを言われ、照れてしまった。

「お母さんは、小さくなりましたね」
「もう、鷹文さん」

ククク。

母親に言う台詞じゃないが、かわいいな。

俺の両親は結婚が早くて二人ともまだ40代。
小柄な母さんは俺と姉弟でも通るだろう。

「坊ちゃん」
また爺の声がした。

どうやら親父の所へ行けと言いたいらしい。

「お母さん。父さんは?」
「書斎ですよ」

はあー。
仕方ない、行くか。