「ただいま」
「お帰りなさい」

8時を回って、鷹文は帰宅した。

「いい匂いだな」

台所を覗き、私のことを後ろから抱きしめる。

「もう、危ないよ。とんかつ揚げるから、着替えてきたら」
「ああ」

着替えに行く鷹文を見ながら、この幸せがずっと続けばいいのにと思った。
毎日こうやって、鷹文の帰りを待って、家事をして、子供を育てる生活。
幸せだろうなあ。その為になら、今の仕事を失っても平気な気がする。

ポチャン。ジュッ。
手が滑り、油がはねた。

「熱っ」
はねた油は私に向かってきた。

慌てた私は、持っていた菜箸を投げてしまい、
ジュジュッ。

「熱っーい」
さらに油が掛かった。

ドタドタ。駆けてくる足音。

「どうした?大丈夫か?」
とっさに火を止め、私の腕をつかむ鷹文。

「うん。ちょっと油がかかっただけ」
またドジをした。
「ちょっとじゃないだろう。バカだなあ。何してるんだ」

呆れたように水道まで連れて行かれ、流水を腕に当てられた。

「ごめん」
「しっかりしろ。考え事しながら揚げ物なんて、するんじゃない」
怒られて、
「だから、ごめんなさい」
ふてくされ気味に言ってしまった。

「なんだよその態度」
「別に」
「お前・・・」
それっきり鷹文は黙まった。

しばらく腕を冷やした後、私の腕を引きリビングのソファーへ座らせた。