「それにしてもひどいな」
連れてこられた会議室で、あきれたように書類を見ている。

確かに、何を考えたらこんなものを上司に出せたのか。

「すみません」

本当に新入社員でもこんな事はしない。

「で、何があった?」
少しだけ優しい口調になった鷹文。

「・・・」
私はただうつむいた。

「黙っていたんじゃわからない。何があったのか話してくれ」
「・・・」
それでも私の口はなかなか開かなかった。

「一華、お前らしくないぞ」

うん、わかってる。
でも、私らしいってなんだろう。

「今日はもういい、このまま帰れ」
持っていた紙をグシャッと丸めて鷹文は立ち上がろうとした。

「私、帰りません」
こんな時に自分だけ休んでなんていられない。

「上司命令だ、今日はもう帰れ」
「絶対にイヤです」

フー。
ため息を1つつくと、鷹文が私を睨んだ。

「じゃぁ話せ。何があった?」
「・・・」
それでも、私は黙ったまま。

その時、
ブブブ。
鷹文の携帯が震えた。

「はい、髙田です。はい、はい。わかりました。向かいます」

どうやら仕事の電話のようだ。

「一華、話してくれ」
「・・・」
「5分後には会議が始まる。お前は俺を、色恋沙汰を理由に仕事に穴を開ける男にしたいのか?」
「そんなことない」

私は仕事をしているときの鷹文が好きだから。
でも、今はまだ考えがまとまらない。

「もう少し気持ちを整理して、ちゃんと話します。だから、時間を下さい」
「わかった。実は俺も話があるんだ。今夜うちに来てくれ。遅くなっても必ず帰るから、待っていて欲しい」

「はい。何か夕食を用意しておくわね」
「ああ、楽しみにしてる」

ブブブ。
また携帯が震え、
チッ。
鷹文は舌打ちをして会議室を出て行った。