「一華さん。鷹文の為にも、一華さんのためにも、1度鷹文を元の場所に戻していただけませんか?」

「はあぁ?」
間抜けな声を上げてしまった。

「一華さんにとっても鷹文にとっても周りの人たちにとっても、何が1番幸せなのかもう一度考えてみてください」
お願いしますと、悠里さんは頭を下げた。

私は今、悠里さんに鷹文との別れを迫られている。
やっと気持ちが通じたばかりなのに初対面の人から別れを迫られるだなんて、理不尽な話だ。
でも、こうして話している悠里さんが悪い人には思えない。
同じような環境に生まれながら、こういう生き方もあったんだなぁと冷静に見ている自分がいる。
それだけ悠里さんは魅力的な女性だった。

私は返事をしなかった。
悠里さんも、それ以上何も言わなかった。

結局2時間ほど店に滞在しワインを2本空け、しっかりとデザートまでいただいた。
就職してから同僚や後輩と飲みに出る事はあっても、いつも鈴木一華の素性は隠したまま。こうやって嘘のない自分でいられるのは久しぶり。
きっとこんな出会い方でなければ、悠里さんと私は良い友達になれただろう。
そう思わせるような清々しい人だった。