「おはよう」
「「おはようございます」」

いつも通り出社をしデスク周りを片付け終わったところで、鷹文が登場した。

「おはようございます、課長」
お茶当番の可憐ちゃんが、コーヒーを配っている。

「ありがとう」
にっこり微笑む顔は、相変わらずいい男。


「一華さん、顔が緩んでます」
「ああ、ごめん」
可憐ちゃんに突っ込まれ、慌てて表情を引き締めた。

鷹文とつきあい始めてすぐ、可憐ちゃんには気づかれてしまった。
私としては隠していたつもりだったんだけれど、単純な私からは恋するオーラがダダ漏れだったらしい。

「あんなにトロンと課長を見ていたんじゃあ、誰だってわかりますよ」
小熊くんにまで言われ、さすがにへこんだ。

まあ、別にこの2人に知られたっていいんだけれどね。

ん?

朝のバタバタの中、珍しい人の姿が目に入った。

「あれ、三浦常務ですよね?」
可憐ちゃんも気がついたらしい。
「そうね、珍しいわね」

普段滅多にこのフロアで会うことのない常務。
もちろん私は小さい頃から知っているおじさまだけれど、仕事で顔を合わせたことはなかった。

「山川部長、髙田課長」

クイクイと、手招きして2人を呼んでいる。
部長と鷹文が慌てて出て行った。

「どうしたんでしょう?」
小熊くんも心配そうにするけれど、
「さあ」
私にもわからない。

それっきり、鷹文も部長も帰ってこなかった。


「もう、お昼ですよ」
「そうだね」

こんな時、兄さんなら何か知っているだろう。
でも、聞けない。
それをすれば、鷹文が嫌がるから。

ブブブ。
仕事用の携帯が鳴った。

「はい、鈴木です」
『高田だ』
「お疲れ様です」
『悪いが、うちの課の人間を会議室に集めてくれるか?』
「何かあったんですか?」
『その時に話す。お昼休みの時間で悪いが、できるだけ全員集めてくれ。15分後に緊急のミーティングを開く』
「わかりました」
何かあったのは間違いないらしい。