「帰るぞ」

何で?

「鷹文、何考えてるのよ。私といたくないの?何でお兄ちゃんなんか呼ぶのよ」
言いながら、涙が溢れた。

「俺は、卑怯なやり方は嫌いだ。泊りたいんなら許しをもらってから来い」
いかにも鷹文らしい。
でも、

「それができないのは鷹文だってわかっているはずじゃないの」
兄さんも父さんも、私達を許す気がないんだから。

「なあ一華、俺はお前と一緒にいられるだけでいいんだ。これ以上欲張る気はない。それではダメか?」
「・・・」
何も言えない。

ふと、病院で会った子供達を思い出し、鷹文から聞かされた8年前の話が頭をよぎった。
きっと、私は今幸せなんだ。その事に感謝しなくちゃいけないのに。

「一華、帰るぞ」
兄さんが立ち上がる。

もう抵抗する気はなかった。

「じゃあね、鷹文。明日会社で」
「ああ」


家に向かう車の中。
こんな時間に呼び出され迎えにきてくれた兄さんも、説教1つしなかった。