不思議なことに、普段やかましい父さんも、あんなに怒っていた兄さんも、何も言ってこない。ちょっと不気味だなあとは思いながら、鷹文と過ごす時間はとても幸せだった。

学生時代の彼氏達はみな派手好きで、高い車に乗って色んな所に連れて行ってくれたけれど、鷹文とはほとんど家で過ごした。
たまの週末にショッピングに行くことはあっても、平日は一緒に夕食を食べて、テレビを見たり、本を読んだり、時に一緒に仕事をすることもあった。
ただそこにいてくれることが幸せなんだと、初めて思えた。

だからと言って、不満がないわけではない。

「ねえ鷹文。今日、泊ってもいい?」
甘えたように言ってみても、
「ダメだよ」
帰ってくるのは毎回同じ返事。
28にもなって、10時にはちゃんと送り届けられる女。
絶対おかしいって。

それじゃあちょっと反抗してやろうと、鷹文の飲み物にアルコールを混ぜてみた。
すぐに気づかれたけれどすでに飲んだ後で、鷹文は運転ができない。

「あら残念。これじゃあ帰れないから、私泊るわね」
勝ったとばかりシャワーを浴び、部屋着に着替えて戻ってみると、

「ええええー」
無表情の兄さんが鷹文の家のソファーに座っていた。