「お前がここまで感情的になるのは鈴木がらみの時だろ?」

なんだか楽しそうに、部長は俺を見ている。

「すみません」
ここは謝るしかないだろう。

「何があった?」
「それは・・・」

俺は部長を慕っている。
周りからは豪腕で、横暴な上司で通っている部長だが、実際は細かい気遣いのできるいい上司だと知っている。でも、鈴木のことは話せない。

俺だって言えるものなら言いたいんだ。
『三和物産の件で責任を感じている鈴木は、専務に直接交渉をして事を納めようとした。その交換条件にお見合いまでして俺を守ろうとしてくれた』って言えたら気が楽になるのにな。

「無理に聞こうと思わないが、あんまり怒るな。いつも温厚なお前が怒っているせいでオフィスがピリピリしている」
「すみません」
「もういいから、今日は早めに帰れ。鈴木も早退したんだろう?」
「ええ」

3時には退社したはずだから、今頃潤と一緒にいるはずだ。
クソッ。

「ああ、それから」
一旦言葉を切った部長が、キョロキョロと辺りを見回す。

「まだ最終決定ではないんだが、来年春にお前の異動の話がある」
「え?」

営業一筋6年。
いつ異動になってもおかしくないとは思っていたが、来年かあ。

「おそらくアメリカ行きになるぞ」
「ええ」
それって、思いっきり出世コースじゃないか。

「俺、出世とか興味ないんですが」
つい口にしてしまった。

「サラリーマンである以上そんなことも言っていられないだろう」
「はあ」

確かにそうなんだが・・・困ったなあ。

「まあ、まだ時間はある。ゆっくりと身辺整理をしておいてくれ」
「はい」

身辺整理か。
部長は結婚って意味で言ったんだろうが、それどころじゃないな。
さあ、どこから手をつけよう。