同期のあいつ

「ここは?」

連れてこられたのはフレンチの名店。
普通なら、予約もなくフラッとは入れる店ではないはず。

「お袋の実家が経営している店でね。融通が利くんだ」
少し照れくさそうに、待たされることもなく案内された席で教えてくれた。

「へー」

ここは確か、旧財閥の鎌倉家が経営するお店。ってことは、白川さんは鎌倉家の縁者?
そりゃあ父さんがしつこくお見合いを勧めるはずだわ。

お行儀が悪いなあと思いながら、キョロキョロと辺りを見回していると、白衣を着た男性が近寄ってきた。

「潤くん、いらっしゃい」
「こんばんはシェフ」
「最近顔を見ないと思っていたらこんな綺麗なお嬢さんと一緒なんて、さすがだね」
「やめてください。彼女とはまだ友達なんですから」

まだ?今はまだって事?

「いらっしゃいませ。石津です」
シェフの方から挨拶をされ、
「こんばんは」
私も笑顔を返した。

「シェフ、悪いけれどお腹がすいているんです。お任せしますから、何か出してください」
まるで街の定食屋にでも来たようなことを言う。
「白川さん」
さすがに失礼ですよと、止めてしまった。

「ハハハ、潤くんらしいね。すぐに用意しますよ。ワインは?」
「いえ、運転しますから」
「そう、じゃあ少々お待ちください」

シェフはニコニコしながら厨房へと戻っていった。

「ここ、初めて?」
「いいえ。中学卒業のお祝いに家族と来ましたし、二十歳の誕生日もここへ来ました」
「へー、誰と?」

悪戯っぽい顔をする白川さん。

「秘密です」

二十歳の頃、初めて付き合ったのは大学の先輩。
お金持ちの息子で、派手好きで、車や服を選ぶように、私を連れて歩いた。
愛なんて無いとわかっていたけれど、当時の私は恋に恋していた。

「思い出の場所みたいだね」
「ええ、苦い思い出ですけれど」