7時過ぎ。

子供達も病室に帰り、病院のホールもだいぶ静かになった頃、
「一華ちゃん」
私は白川さんに呼ばれた。

いつもより少し険しい顔が、何かあったと言っていた。

「どう、したんですか?」
「うん。患者の男の子が1人、アレルギーのあるお菓子を食べてしまってね。大きな発作を起こした」

えっ。
それって・・・

「私のせい、ですよね」
「いや、彼はわざと食べたんだ。食べればどうなるか知っていて食べたんだから誰の責任でもない。でも、相手は子供だからね、周りの大人がもう少し気遣うべきだったって話になるだろうな」
寂しそうに肩を落とした。

「ごめんなさい」

「君の責任じゃないよ」
「でも・・・」

私は事前に、バスケットのシールを確認するように言われていたし、あの子が入院患者なのも、バスケットがないのもわかっていた。

「あの子、どうなんですか?」
「うん、落ち着いてる。大きな発作だったからしばらくベットを離れられないだろうけれど、命に別状はない」
「そうですか」

ああ、私はなんて無力なんだろう。小さな子供1人守ることができないなんて。

「もう大体終わったから、送るよ」
「いえ、1人で」

「いいから」

ちょっと強引に手を引かれ、私達は歩き出した。

「本当に大丈夫ですから。白川さん、まだお仕事あるんじゃないですか?」

仕事が忙しくて、プライベートなんてないって言っていたのに。

「いいから。まずは食事に行こう。それから、家まで送らせて」

「・・・」
返事はしなかった。

ただ黙って白川さんについていった。