フツフツと怒りがこみ上げる中、私は必死にこらえて仕事をこなした。
本来午後から外回りのはずだった髙田もオフィスに残っていた。

午後の勤務が始まって少し経った頃。
髙田が席を立ったのを見て、私は後を追った。
どうしても一言文句を言いたかった。

「髙田課長」

「何だ?」
振り返った表情は、朝よりも疲れて見える。

見た瞬間、怒りよりも不安の方が大きくなった。

「どうしたの?大丈夫?」
周りに誰もいないことを確認して、いつもの口調に戻った。

「ああ」
自販機で買った缶コーヒーに口をつける髙田。

「らしくないよ」
あんな風に怒りにまかせてものを言う人じゃないのに。

「お前はいつも通りだな」
嫌みな言い方。

「どういう意味?」
「その通りの意味だよ」
棘のある口調は変らない。

「何を怒っているの?私何かした?」
「自覚がないって、恐ろしいな」

「やっぱり、昨日白川さんといたことを怒っているの?」
「はあ?」
呆れたように私を見ている。

だって、他には思い当たらない。

「ねえ、髙田。私に怒っているからって、小熊くんに厳しくするのはやめて。彼も一生懸命なのよ。今日のお昼にもね、」
髙田のことを『俺のあこがれです』って話してくれたの。って言おうとしたのに、

「聞きたくない」
髙田が遮った。

「髙田・・・」

私の心にもう少し余裕があれば、この状況を冷静に受け止められたと思う。
いつも優しい髙田がこんなに怒るにはそれなりの原因があると、想像するべきだったと思う。
でも、できなかった。
ただ怒りしか、湧いてこなかった。

「そんなこと言う髙田とは、もう話さない」
「好きにしろ」
「髙田なんか・・大っ嫌い」
「俺も、お前が嫌いだ」

売り言葉に買い言葉なのはわかっている。
でも、聞いた瞬間涙が溢れて、私は背を向けた。
振り返ってはダメ。
顔を見てしまったら、もっと酷い事を言ってしまいそうだから。

このまま席に戻るわけにもいかず、私は1人屋上に逃出した。