「戻りました」

オフィスに戻ると、数人の社員しか残っていなかった。
今はお昼時だから、みんなそれぞれ食事に出ているんだろう。

私は自分の席に戻ることなく、髙田の元に近づいた。

「課長?」
声を掛けてみたが、不機嫌そうに顔を上げた視線は私に向かっていない。

「小熊、お前携帯はどうした?」

ん?

「ああ、えっと、すみません。切ったままでした。ちょうどお昼休みだったものですから」
悪びれもせずに言う小熊くん。

「営業なんて、いつ連絡が来るかわからないんだ。電話は切るな。捕まらない担当なんて、誰も信用しないぞ」
説教口調の髙田。

「すみません」
不満そうに、でも小熊くんは頭を下げた。

「何かあったの?」

こんなに怒るのは何かあったからに違いない。
チラッと小熊くんを見て、身に覚えはないの?と尋ねてみるが、小熊くんは首を振った。

「お前、山通の高山課長に電話する約束してなかったか?」
「あ、ああ、そうでした」

慌てた小熊くんが携帯を操作する。

「待て」

「「へ?」」
私と小熊くんの声が重なった。

「電話ではなく行ってこい。先方が知りたがっている商品のサンプルも資料もすべてそろえて今すぐ行け」
「そんな、電話で聞かれたことに答えればいいじゃないですか」
「ダメだ」
「それじゃあ、時間の無駄ですよ」

ああー、小熊くんの悪いところが出てしまった。
こんな言い方をすれば相手は引けなくなるのに。