お昼時。
相変わらず、髙田の機嫌は良くない。
それは私だけにではないらしく、時々書類を持って訪れる営業部員達にまでだめ出しをして書類を突き返している。
らしくない。本当に、髙田らしくない。

本来なら、先週迷惑を掛けたと低姿勢でいてもおかしくないのに。何なのよ、一体。

「一華さん、顔が怖いです」
可憐ちゃんに突っ込まれた。

「ああ、ごめん」

私までイライラしていたら、フロアの空気が悪くなるだけだものね。
気をつけないと。

「でも、課長どうしたんでしょうね?機嫌がすごく悪いし、体調も、顔色も良くないですよね」
「うん。そうね」

こんな髙田は初めて。

「何かあったんでしょうか?」
意味ありげに私を見る可憐ちゃん。

「知らないわよ」
私が教えて欲しいくらい。

「ああ、チーフ」
ちょうど外回りから戻った小熊くんが、駆けよってきた。

「お帰り」

「チーフお昼まだですよね?」
「うん」
「よかったー、間に合った」

息を切らし、肩で息をする小熊くん。
よほど急いで帰ってきたらしい。

「どうしたの?」

「通りの向こうにできた定食屋が半額クーポンを配っていて、今日限定だったんで一緒に行きませんか?」

はあ?お昼のお誘い?

「それなら私じゃなくても、友達とか。そうだ、可憐ちゃんとか、誘う人は他にもいるでしょう?」

何で、私なの。

「だって、萩本とか誘っても、『ご飯は小盛にして』とか、『こんなに食べられない』とか、文句しか言わないんです」

はあ、なるほど。
確かにあの定食屋さんは女の子には量が多いし、ガッツリしていて、かわいくもおしゃれでもないものね。

「喜んでくれるのはチーフくらいです」
うーん、それ褒められた気がしない。

「ねえ行きましょうよ、何なら、おごりますから」
「バカね。それじゃあ半額クーポンの意味がないでしょうが」
「じゃあ、行きましょう。早く行かないと、席がなくなりますよ」
しつこく誘ってくれる小熊くん。

ここまでなつかれると、悪い気はしない。

「わかったわ、行きましょう」
小熊くんの後に続き、私はオフィスを後にした。