「すまない」
「もういいって。そんなに謝らないで。鷹文らしくないでしょ」
「すまない」
もう、同じ言葉しか出てこない。

「あのプライドの高かった鷹文が、住所も学校も携帯もすべて変えて、別の人生を歩こうとしたんだもの。それだけの覚悟があったんだと思うし、そうしないといけない状況だったってことでしょ?」
「ああ」

確かに、あの頃の俺は壊れていた。どうやって日々生きていたのか、記憶がない。

「苦労したのね」
悠里が俺の手に自分の手を重ねた。

温かい手だ。
付き合っていた頃、『私、平熱が高いから手が暖かいの』って言っていたっけ。

「本当に、すまなかった」
自分の声が震えている。

8年前の俺は人として未熟で、周りの人間を気遣うこともできず、自分自身をもてあましていた。
悠里や潤の前から消えた俺は、引きこもりのような生活を1年半ほど過ごした後やっと社会に戻ることができた。

「もう、昔話はやめましょう。私は今、鷹文に再会できたことに感謝しているのよ。わかる?この気持ち」
「いや」
わからない。

突然姿を消した男のことなど、恨んでくれて当然なのに。

「まあいいわ。飲みましょう。今夜は8年ぶりの再会を記念して朝まで飲むわよ」

すでに2杯目のグラスを空けようとしている悠里。
あれ?悠里ってこんなに酒が飲めたっけ?
いつも弱めのカクテルをチビチビやっていたイメージしかないが。

「ちょっと、そんな顔して見ないで。人間変るのよ。6年以上社会人していれば、お酒だって強くなるし、お世辞だって、キレイごとだって言えるようになるの」

「そうか・・・」
俺の知っている悠里のままじゃないって事だな。

その後、戻ってきた潤も交えて明け方近くまで飲み続けた。
午前中休みを取っていた潤以外は数時間後に勤務に就かないといけないと知りながら、懐かしい時間を過ごした。