「こんばんは」

1時間ほどして彼女がやって来た。

肩まで伸びた眺めのウエーブは明るいブラウン。
ナチュラルメイクながら、はっきりとした顔立ちと大きな瞳が意志の強さを覗わせる。
本郷悠里(ほんごうゆうり)は、その強い目力で真っ直ぐに俺を見た。

「久しぶりだな」
他に言葉が見つからなかった。

本当ならこの場に土下座をしてでも謝らなければいけないはず。
俺は悠里にそれだけのことをした。

「随分元気そうね」

嫌みなのか、本気なのか、悠里は俺の顔をのぞき込んで笑って見せた。

「ああ」

元々美人だったけれど、大人っぽさが加わった悠里は素敵な女性になっていた。
『綺麗になったなあ』と言いかけて言葉を飲み込んだ。
そんな軽口を叩くのは不謹慎な気がした。

「俺、ちょっと電話してくるわ」
潤が席を立った。


「気を使わせたわね」
「ああ」
あいつなりに、俺たちのことを心配してくれているんだと思う。

「8年ぶりね」
「ああ」

「・・・」
不意に、悠里が目頭を押さえた。

「ごめん。突然連絡を絶ってしまって、申し訳なかった」
やっと、謝罪の言葉を口にした。

「本当よ。付き合っていたはずの男がいきなりいなくなって、面食らったわよ」
「すまない」

「仕方ないわ。それだけのことがあったんだから」
悠里は感慨深そうに俺を見る。