「俺は今のままがいいんだ」
グラスを空けながら、潤を見た。

「それじゃあすまないだろう?」
「まあな。いつまでもって訳にはいかないが、できるだけこうしていたい」

これは本心だ。
そろそろ親父が黙っていないのはわかっているが、この生活を失いたくない。

「そうか」

それ以上、潤は何も言わなかった。
俺も、鈴木との見合いの結果を聞かなかった。
ただ、人生の半分以上を共に生きた親友との時間は穏やかで、酒だけが進んでいった。


「そういえば、悠里が帰ってきたぞ」

その名前に、また胸が痛んだ。

「ヨーロッパに行ってたんだよな?」
「ああ。親父さんの会社の支店を回ってきたらしい」

へえー。

「呼んでもいいか?」
「いや・・・」

長いつきあいの俺たちはお互いの扱い方に慣れている。
どういう言い方をすれば相手が怒って、どう切り出せば断れなくなるのかがわかっている。

「あいつもお前に会いたがっているし」
「・・・」

もう、反論はできなかった。
ピコピコと携帯を操作する潤を見ながら、俺なりに覚悟を決めた。

いつまでも逃げるわけにはいかないらしい。