今日の午後、久しぶりに訪れた郊外の本屋で偶然鈴木と会った。
お互い同じ本を手にしようとしていたこともあって、少しだけ立ち話をした。
昨日一日一緒にいてもう話すこともないだろうに、鈴木との会話は楽しかった。
こんなところで会えて得した気分だなあと、思っていたとき、

「一華ちゃん」
背後から男の声がした。

ちょっと困った顔をした鈴木が、
「会社の同期。偶然ここで会って」
と言うのが聞こえて、ああ連れの男かと気づいた。
そうとわかれば、鈴木を困らせないように挨拶するしかない。

「会社の同期で高田鷹文と言いま、す」
男の顔を見た瞬間、言葉に詰まった。

それでも気付かれないようになんとか誤魔化した。
相手も知らないふりで挨拶を返してくれた。


「彼女、かわいいな」
「へ?」
間抜けな声を上げてしまった。

「彼女だよ、一華ちゃん」
「ああ」
ぶっきらぼうに相づちを打ち、俺はビールをグイッと流し込んだ。