「……弟が、ごめんね」




そんな彼女が、シャンプーを終えてわたしをスタイリングチェアに座らせたとたん、急に声を落とすものだからその場に居合わせた剛さんが表情を曇らせる。


鏡越しに見る涼さんは張り詰めた顔で、重たい口を開いた。




「あたしの本名は、潮崎涼」




潮崎。それは、毎晩のように悪夢に現れる、あの人の───理叶の名字。


決して消えない傷をもたらした、黒帝のリーダー。


あの目は、あの声は、今も脳裏に焼きついて離れない。




「そう、理叶はあたしの弟」




いつかもう一度、理叶や光冴に顔を合わせなくてはならない日が来るのだろうか。


その時は、すぐそこに迫っているのかもしれない。