颯馬さんと剛さんが帰った後、洗い物をしていないことに気づいた。


広いキッチンで黙々とお皿を洗っていると、不意に、お腹の辺りに覚えたぬくもり。



「志勇?」



気がつくと後ろから抱きしめらていた。


振り返ろうにも、恥ずかしくて身動きが取れない。



「やっと2人きりだ」



その体勢のまま、ぼそりと、どこかいらだちをうかがえるトーンで呟いた志勇。



「どいつもこいつにもいい顔しやがって……もう外に出さねえぞ?」



背中に伝わる彼の体温と、耳の後ろにかかる吐息を感じて、スポンジを持っていた手が止まる。



「いや、駄目だ。お前は帝王の妃だからな。
他の奴らに自慢してやらねえと」



……監禁したいのか、見せびらかしたいのか、どっちなんだか。


心中ツッコミながら、くすぐったくて心地いい彼の腕の中から抜け出せない。


そして思いがけず、わたしの口は自然と開いていた。



「帝王の妃、か。わたしは、シンデレラがいいな」



初めて自分から切り出した、欲。



「シンデレラ?」

「うん、わたしね……」



それはわたしが、彼に心を開き始めているということの表れだった。



「シンデレラに憧れてたの」



人に初めて語るこの話。



「だって、環境がそっくりだから。
意地悪なまま母がいて、姉妹がいて、わたしは血が繋がってないからこき使われて……まるでシンデレラみたいだなって」



志勇はただそれを、わたしと密着した状態で無言のまま聞いてくれる。


それっぽちで、大事にされてるなんて誤解をしてしまうわたしは愚か者。



「だから、こんなわたしでもいつか幸せになれるんだって、そう思って、どんな辛いことも耐えて生きてきた」



期待をしてしまうから、優しくてしないでほしい。



「笑えるでしょ。馬鹿みたいに、あるはずのない幸せを夢描いてたなんて」