ぐうぅー



安堵の息を漏らしたその時、空間に広がった拍子抜けする音。


原因は、わたしのお腹。



「あ、ごめんなさいっ……」



自分でもびっくりしてお腹を押さえる。


最悪、なんでこんなタイミングでお腹が鳴っちゃうの?


そんなにお腹が空いてる自覚なかったのに。



「そういや壱華、今日は何も食べてなかったな」



少しの間、なでている手を止め、わたしを観察していた荒瀬さん。


怒りが薄れたらしい彼は、自分の手をわたしの手の上に重ねた。



「何が食いたい?俺がどこでも連れてってやる」



そう言われても、思いつくものがない。


それにもし、街を出歩いて黒帝にでも出会ってしまったら。


だったら自分で自炊した方がお財布にも優しいし安全。



「いえ、自分で何か作っ……!」

「遠慮するな。食いたいものを言え」



そう思ったのに、荒瀬さんが片手で顔を掴んできたものだからどうしようもない。



「……桃」



結局思いついたのは、風邪を引いたときなんかに、叔父さんが食べさせてくれた桃。



「桃?お前そんなんじゃ腹いっぱいにならねえだろうが」



そんなこと言ったって、一瞬間寝込んでいたわたしがガッツリ食べられるわけがない。



「買ってきましょう。彼女も病み上がりですからあまり食べられないでしょうし。
外出するのは体力が回復してからの方がいいかと」



黙ってると、わたしの意見を通してくれたのは、颯馬さん。



「は?黙れ、その喋り方うぜえ。
剛、お前が買ってこい」

「へい」



ところが荒瀬さんは弟を睨むと、命令した相手は剛さんで。


あれ、軽くいじわるした?