するとそこで、颯馬と名乗った男の、異様に冷たい視線を感じ取った。


柔らかかったはずの彼の視線が、いつのまにか鋭いものに変わり、わたしを見定めている。


その目は、あの日の理叶と同じだった。


『お前には失望した』と、わたしを絶望に叩き落としたあの目。


背中に鳥肌が立ち、そこから全身に広がるように身震いが始まる。


膝の上に乗せていた手を握りしめ、五感を遮断するように目を閉じてうつむいた。




「壱華」



されどこの人の声は、どんなときでも受け入れてしまうみたいで。


腰に添えられた手に力を込め、両膝の裏に手を入れられて、ひょいと抱えられた。


いわゆるお姫様だっこの状態のまま、座らされた場所は、彼の脚の間。


荒瀬さんの大きな手のひらが頭に触れ、彼の胸に頭を預ける形に。


とくん、とくんと、規則正しい心音が聞こえる。



「……颯馬」



そして地を這うような低音で、面前の男を呼んだ。


それはわたしが初めて体感した、彼の本気の怒りだった。



「その目で壱華を見るな」



威圧的で凄みのある態度に対し、頭に置かれた手は、髪に指を絡ませるように優しくなでてくれる。


なんでだろう。


荒瀬さんから放たれる気はとても冷たいものなのに。


すごく、落ち着く。