「……着替え、ました」



脱衣所を抜けて、リビングへと続くドアを開ける。


そっと中の様子をうかがうと、黒いソファーに深く腰掛ける荒瀬さんと、向かい合わせで設置してあるソファーに、2つの後ろ頭が見えた。



「ふん、いいな。よく似合ってんじゃねえか」



こちらを見て、満足気に鼻を鳴らす荒瀬さんの声に、彼と対面していた2人がこちらを見る。


なぜか目を合わせることが怖くて、彼らの顔を確認する前に視線を床に飛ばしてしまった。



「こっち来い」



荒瀬さんの声に導かれ、歩き出す。


なんだか足元がスースーして歩きにくい。


わたしが着用しているのは、膝丈のフレアワンピース。


ワンピースなんていつぶりに着たんだろう。


わたしの服は大抵ジャージやルームウェアだった。


美花の着なくなった服は実莉が着るから、着るものはない。


実莉の着なくなった服はサイズ的に入らないから処分。


だからわたしが着るのは、美花やおばさんが着なくなった部屋着だけ。



なんでこんなときに思い出すのかな。


嫌な記憶を掘り返したって虚無感に襲われるだけなのに。