「これは?」

「……」

「この傷痕はどうした」



怖くて黙り込むわたしに、頭上から荒瀬さんが問いかけてきた。


彼はわたしの背中を指さしていた。



「それは……」



ずいぶん前に、不機嫌だった美花に後ろからマグカップを投げつけられてできた打撲の痕。


もう治ったと思っていたのに、まだ残ってたんだ。



「言わなきゃここで襲うぞ」



言いよどんだままでいると、まさかの発言。



「それは、姉に物を投げつけられて……」



慌てて口が滑り、真実を(こぼ)してしまった。


チラリと彼の顔色をうかがうと、眉をひそめてすごく怒ってて、それ以上口を挟めなかった。



「これは?」

「そこは、おばさ……母に引っかかれた痕です」



視線を滑らせた彼は、わたしの二の腕にある引っ掻き傷を見つめている。


その目はなぜか悲しそうな、切ない感情を宿していた。



「じゃあ、これは?」



最後に鳩尾(みぞおち)にある治りかけの青アザに注目。


そこは───



「……たぶん、あなたに殴られたときの……」



錯乱状態のわたしを気大人しくさせようと荒瀬さんが殴った痕だ。



「……」

「……」

「……悪かったな」



いろいろ思い出してしまい、訪れた沈黙を破ったのは荒瀬さんの謝罪。


……え?


あの荒瀬志勇がわたしに、謝った?