圧倒的権力を誇る組長は、自分の他愛のない仕草で騒ぎを仲裁(ちゅうさい)すると、こう口を開いた。



「……あんたらもジジイになって、短気になったもんだな」

「親父……」

「口出しはしねえつもりだったが、年配の説教は長ぇ。
頭に血が上った拍子にコロッと逝ってもらっても困る」



組長さんは眉をしかめる志勇を横目で見ると、ただ前を見据(みす)えて声を響かせた。




「いいか、誰も死んでねえんだ。
撃たれた志勇の側近も潮崎のせがれたちも、誰ひとりとして荒瀬の人間は死んじゃいねえ。
ご無沙汰の抗争で命が恋しくなったか?
大の男がグチグチと文句垂れやがってみっともねえ」



彼の発言を受け、ぐっと顔を強ばらせ、ばつが悪そうにうつむく人もいた。



「それに潮崎は納得してんだ。なあ、お前、息子から言伝預かってんだろ?」

「へい、自分の身に何があっても手出しは無用だと」



手前にじっと座っていた熊のような体格の男性が頭を下げる。


何度か見たことがある。この人が理叶のお父さんだったんだ。



「抗争が終わったのも、このガキが北とサツの関連性を暴いたから。
俺たちゃ、西の若いのに助けられたんだよ」



続いて組長さんは望月を顎で指し示す。


納得できる考えに一同は押し黙ってしまった。





「ん?どうした壱華。こいつらが騒ぎたてるから耳が痛いって?」

「……え?」



そんな中我らが若頭は、余裕の表情でわたしの頭をなでた。



「ならここで俺が黙らせてやろうか。
上に歯向かおうとする奴は、今後裏切る可能性も高いしな」

「っ……!」



けど、次の瞬間、味方、望月、全員に対して悪人面になる志勇。


どうやらわたしを甘やかしたのは、この忠言を放つための布石だったらしい。


ギャップがありすぎるから効果覿面(こうかてきめん)みたいだ。