いつになく強引な志勇。


ふと、彼に命令されて逆らえる女はいるのだろうか、と心の中で笑った。


足は自然と彼の腕の中を目指す。



「壱華」



早く来いといいたげに急かす志勇の呼び声。

あと2歩、あと1歩───



「わっ……」



ところが志勇は我慢ができなかったみたいで。


あと一歩のところで、わたしの腕を引っ張ってたぐり寄せた。


有無を言わせず強い力で抱きしめてくれる帝王。



「……志勇」



そんな唯一の男に、シンデレラは裸足で抱きついた。


ふたりの愛を確かめ合うのにガラスの靴など必要なかった。





「壱華」



呼吸が苦しくなるほど、その手で触れて、その腕で抱きしめて待ち焦がれたように「わたし」を確かめる志勇。


負けじとその背中に回した腕に力を込めた。


お互いがここに存在しているんだって、生きているんだって分かるように、強く、強く。


深く息を吸い込んだ。胸に頭を預けた。


志勇のにおいがする。志勇の鼓動が聞こえる。




ああ、切なくて苦しくて幸せだ。


生きていてよかったと、今日ほど思った日はない。