狼の低い唸り声が静寂を破る。


目線はわたしではなく望月に向けられていた。



「まず、壱華を返せ」



1ヵ月ぶりに耳にした、志勇の声音。


怒りを孕ませたその一言ですら、わたしの心を、身体を、じっくりと刺激して。



「荒瀬の地に足を踏み入れたからには、壱華は俺のもんだ」



はっきりと口にした言明に心を揺さぶられて、わたしを求める憂いを帯びた瞳を見つめて歓喜に震えた。





「さっさと渡せ」





立ったままの望月は意表を突かれた顔をしている。


こちら側の側近はというと、颯馬さんはやれやれと肩をすくめ、司水さんは口元を緩めていた。


組長さんは志勇が勝手な行動をしてるのに、前を向いたままな気にも留めていないし。


すると志勇は痺れを切らしたのか、あぐらを崩し立ち上がった。



「……壱華」



目線を近くした彼は足を止め、誘うようにわたしを呼ぶ。



「壱華、来い」



今度は力強い口調で呼び、腕を広げて、わたしを迎え入れようと行動で示した。