「遠路はるばるお越しいただき、誠に恐縮にございます」



組員さんが石畳の脇に並んだ、おなじみのヤクザロードを通り抜け、玄関で待っていたのは中性的な綺麗な男性。


司水さんだ、変わってない。1ヶ月間会ってないだけなのにとても懐かしく感じる。




「ほう、組長の側近頭自らがお出迎えとは、光栄やなぁ。
ああ、ところで……」



望月は虎のようなオーラを全開にして軽く司水さんをたしなめている。



「なんでしょう」



立ち上る無言の圧力に身構える彼だったけど。



「外に並んでる奴ら、はよ中に入れたれ。凍え死ぬで」

「……お心遣い、ありがとうございます」



ワントーン声を高くして司水さんに訴えると、コロリとキャラの変わった彼に司水さんは動揺していた。


……やっぱりこのギャップにはみんな惑わされるよね。




「おかえりなさいませ、壱華様」



次に司水さんは、優しく微笑んでわたしを迎え入れてくれた。




でも一番最初のおかえり、は志勇に言ってほしかったな。


志勇は若頭という役職もあるのだろう。わざわざ玄関には来てくれないみたいだ。


当たり前かと言い聞かせても、悪い方向にばかり考えてしまう。


やっぱり志勇にとってわたしは、道具としての価値としか捉えられてなかったのかな。


わたしにくれた優しさも言葉もぬくもりもしょせんは建前だったのかな。





「ただいま帰りました」



複雑な気持ちで、微笑ともいえない曖昧な表情で返し奥に進んだ。