「うっ……」

「……理叶、傷が痛むの?」



あふれそうな感情の波を抑え切れそうになく、腕で顔を隠した。


心配する壱華の声。


その優しさも、その声もその身体も、全てあの男に注げばいいだろう?


それなのになぜ、俺なんかに構う。




「見ないでくれ」

「何?苦しいの?」

「壱華……」



嘘だ。本当は俺を見てほしい。俺だけを見てほしい。



「ねえ理叶、ナースコール……え?」

「……そんな遠くに、行かないでくれ」



でも、あの男に何もかも負けている俺は、こうやって壱華の腕を掴んで、気を引くことくらいしかできねえんだ。


……もう、言ってしまえば楽になるのだろうか。






「……好きだ」





想いを込めて放った言の葉。


どれだけ想っても、結ばれないことは分かっている。



「壱華、好きだ……」



それでも言い続ける俺は、心の底から壱華を愛しているんだ。


愛しくて苦しくてたまらない。



「……ありがとう。わたしも理叶のこと、好きだよ」



時間を置いて、それから壱華はそっとささやいた。


その見え透いた嘘が、優しさが、俺には辛かった。


涙がこぼれそうになるのを堪え、壱華の腕を放す。そしてその手で顔を隠した。


最後に壱華は俺の頭にそっと手を置いて、それから病室を出ていった。




ドアの向こうには、そこで待っていたのだろうか、覇王が待機している。


壱華が向かうと、並んで歩き出すふたり。


ああ、違和感の正体はこれか。


壱華の隣にいる男があいつだから「違う」と思ったんだ。



お前の隣には帝王がいるべきだ。


どうかあの人と幸せになってくれ。


俺はお前を見守り、常に幸せを願うことを、宿命としよう。