「噂じゃあいつ、女は組のお嬢から社長令嬢までとっかえひっかえって話やん?
そんな男がひとりの女にハマり込むなんてありえへん」



ああ、またこの話?いやらしく笑って嫌味を言って。


不安がる様子を見て愉しむだなんて本当悪趣味。あの姉妹と一緒だ。



「抗争が終われば、壱華は用無しかな」



ネチネチうるさい、明らかに挑発されている。


黙っていたわたしもさすがに我慢の限界だった。




「うるさい、おっさん!」




思わず大きな声を上げた自分に驚いた。


びっくりして目をパチクリする覇王。冷静な赤星ですら、驚いて眉を跳ね上げた。


次の瞬間───



「ぶはははっ!誰がおっさんや!俺まだ27やで!?」



覇王は口を開けて激しく大笑いを始めた。



「いひひ、ウケるわ~。壱華、お前なかなか鋭いツッコミのセンスしてるで!
いきなりおっさんって……びっくりしたわ~。はは、おっさんって……」



何やらツボにハマったらしく、腹を押さえて笑い続ける。


ところがひとしきり笑って、急に大人しく座り込むと。




「そっかぁ……俺、もう三十路?アラサーやん。おっさんやんか」



さっきの勢いはどうしたのか、肩を落として独り言。



「時間差……」

「申し訳ありません。若がこんなけたたましくて」

「誰がけたたましいや!鶏ちゃうねん!」



上を見上げると、赤星が頭を下げて謝罪していた。


彼は、こめかみのところに切り傷があった。


何気なく、その傷を見ていたつもりだったけど彼はわたしの視線に気がつくとギョッとした顔をしてそっぽを向いた。


見られたくない傷跡だったのかな。



「大希、彼女で遊んでる場合ではないのでは?」



視線を外した彼は、少し早口に覇王を忠告する。