「……なるほど、ここまでとは」

「……」

「狂愛、ねぇ……」



覇王は虚を突かれたような顔で一言二言呟いた。



「赤星」

「はっ」



そしてわたしから目を逸らし、部屋の隅に待機していた赤星を呼んだ。



「壱華に部屋を案内せえ。心配はいらん。
荒瀬と極山の間で抗争が勃発した以上、動くにも動けんやろ」

「……抗争?」



それだけ言うとほくそ笑んで立ち上がる覇王。


その大きな身体はまさに西の覇者、覇王。まるで孤高の獣、虎。



「待って、どういうこと?お願い、教えて」



恐ろしいと(すく)んだけれど、怯えている場合じゃない。



「行かないで!」



わたしは彼の大きな背を追った。だけど急に立ち上がったせいで目眩がした。



「待って……」



気絶していたくらいで目眩を催すなんて情けない。


だけど耳鳴りがして、視界が狭まって、もう立っていられなかった。


その直後、望月は襖の奥に消えた。