「俺が佐々木と接触したとき、奴の体に発信機をつけた。
それが今大阪で止まってる。西雲に攫われたのは間違いない」

「……望月、か。よくもまあ、俺の目をかいくぐって壱華を奪ったもんだ。
……ふざけんじゃねえ!」



颯馬の話を聞きながら体を起こした俺は、ベッドサイドのテーブルを力いっぱい拳で叩いた。


震動でスタンドライトが倒れかけ、花瓶の水が床にこぼれた。



「兄貴、動くな!肩の傷が開く。
それにあんたの右脚を傷つけた銃弾は、骨に当たるギリギリのところで止まってたんだ。筋肉を突き破って再生には時間がかかる。
そんな体じゃ満足に動けない!」

「……だま、れ!」



壱華が誘拐されたというのに動くなだと?俺が聞き入れるはずがないだろ。


颯馬の忠告を無視して自分の体がどこまで動くのか試みる。


ところが体は無様にも床に倒れ込んだ。その拍子に点滴の針が外れて振り子のように揺れていた。


俺はまるで動けなかった。




「どう足掻こうが西には行かせねえぞ」

「……」

「抗争が始まったんだ」

「……なんだと」

「若頭とその側近が撃たれたんだぞ?
荒瀬だって我慢できない。
もう誰も動けやしない。誰も逃げられねえよ。
この最悪の事態が終息するのを待つまで」



まさに最悪の状況だ。


抗争が起発した以上、下手に動くことができない。



「ほら、兄貴、肩使え」



打開策が見つからず呆然ととして、素直に肩を借り、ベッドのへりに腰を下ろした。



「それまで……壱華が殺されるかもしれねえってのを、指くわえて見てろっていうのか?」



諦めに近い絶望が身に降りかかる。



「そうは言ってない。それに、おそらく西は相川壱華を殺せない」

「今は、な。いずれ必要ないと思えば殺すさ。あの男のことだ」

「単に殺そうとしているなら、奴らは何の為に人質を取った?
潮崎理叶が西に囚われているのはどうしてだ」

「はっ、知るかよ……」

「西雲にも、あいつらなりに考えがあるはずだ」

「……」

「……おい、何黙ってんだよ」