「今さら抵抗すんじゃねえ。ほら、口開けろ」

「むぐっ!」



記憶を掘り起こすため頭をフル回転させていると、突然、大きな手で顔を鷲掴みにされた。



「こんなに痩せやがって……死ぬ気かお前は」

「ううっ!んー!」

「いいか、聞け。お前は俺のものだ」

「……!?」

「これから先何があろうとも、俺はお前を離さねえ。
それがたとえ死であろうとも、俺から逃げることは許されない」



……何、この人。


言ってることが理解不能。


ただひたすらに怖いのに───




「この世に絶望してるんだろ?
だったら、その一生を俺に託して、俺と生きる道を選べ」




不意にうっすら浮かべた笑みに、魅了されてしまうのはどうして?


憂いを帯びた妖艶(ようえん)な表情に、わたしは動けなくなってしまった。


すると荒瀬さんはわたしを膝の上に乗せたまま、グラスの水を口にした。


より近づいた彼の息が鼻先にかかる。


あ、食べられちゃう……。






ピンポーン。





もう駄目だと諦めかけた瞬間、インターホンらしき音が鳴り響いた。

……助かった。




「……」

「……」

「チッ」




それから長い沈黙の後、荒瀬さんは口に含んでいた水を飲み込み、大きな舌打ちをして渋々離れていった。