なぜ、今なんだ。

どうして今、壱華を攫う必要がある。



「……ぁああ!」



言葉にならない叫びは、無意識のうちに出たものだ。


両腕を地面に叩きつけ、自分の無力さを呪った。


壱華にもらった腕時計が、衝撃で揺れてカシャンと鳴った。




それからのこと、どうやってその場を抜け出し、どのように助かったのかは、俺はほとんど記憶に残していない。




ただ、時計の針が12時を指して、永遠に時を止めていたことは明確に覚えている。



時計はそれきり動くことがなかった。