「兄貴、やっぱり……撃たれたのか!……このっ!」



颯馬は俺の姿を目に入れると怒りを露わにし、全体重をかけて佐々木を殴り飛ばした。


奴は無抵抗だった。



「颯馬……いい、やめろ」



次に颯馬は殴った相手の胸倉を掴みあげた。


緊張が解けたのか、頭が回らない。颯馬にそれ以上声をかけられなかった。


違うな、血の流しすぎだ。


ふと見ると、脚から流れ出た血は黒いアスファルトの上に赤い血だまりを形成し、肩の傷は腕の辺りまで血が染み出ている。



「……さすが狼。仲間意識が強い。
なるほど、兄弟そろって若頭が気に入る獰猛さ……」

「おい、何をワケのわからねえこと言ってやがる。
謝っても済む話じゃねえぞ」

「それよりあなたは若頭の手当をしたらいかがでしょう。
深い傷ではありませんがこのままだと危険です」



はっとして颯馬は手を離す。


解放された佐々木は乱れた襟元を整え、再び俺を上から見下ろしてきた。





「今から警察が群れを成してこのマンションに押しかけてくるでしょう。その前に逃げてください」



自分の身を案じろというのか。


ふざけるな、壱華をどうするつもりだ。



「壱華は」

「必ずお返しします。我らが宿願を叶えるまで、どうかそれまでお許しください」

「宿願?……っ待て!壱華を返せ」



奴を目で追うため視点を移動したそのとき、車内には壱華と潮崎のガキが運び込まれたところだった。



「ああ、それから、潮崎組組長のご子息は保険として預からせていただきます。ご了承下さい」

「ならっ、俺を連れていけ!」

「兄貴、その体で動くな!」

「壱華……壱華っ!」



佐々木は俺に背を向けた。


目眩を覚えながら重い身体を引きずって、なんとか奴の後を追う。颯馬に引き止められても俺はひたすらに壱華だけを見ていた。




「壱華ぁーっ!」



黒い車に運び込まれる壱華の白い身体。俺はそれを眺めることしかできなかった。


佐々木の発した数々の言葉の真意を、ついに俺は見出すことができなかった。