声は後方からだった。


振り返らなくたって分かる。この声は——



「若頭の足を止めるなんて失礼極まりない。
そんな人間、相手にしてもらえるはずがないだろ。
さっさと道を開けろ」



理叶だ。



「誰?あなたには関係ないでしょ」



図星をつかれた彼女たちは、掴んでいた袖を離して、理叶たちに近づく。


ああ、せっかくの振袖にシワができてしまった。




「へぇ、あんたら、こいつに逆らうんだな」



ショックを受け袖をチェックしていると、もうひとつ声がした。



「まがいなりにも、潮崎の若頭だぞ?」

「え……潮崎組の?」

「はっ、そーやってすぐ目の色変えてさぁ……猫被りも大概にしろよ。見ていて吐き気がする」



……光冴だ。



「壱華、行くぞ」

「待って」



志勇に急かされたけど引き止めた。


いつもと違う。これまでは、彼らを見ただけで恐怖に襲われていた。


だけど、今日一番に思い浮かんだ感情は懐かしさだった。




「っ、この、クソガキ!」



パタパタ、プライドを踏みにじられた女たちは逃げ音を立てて去っていく。


私は思いきって後ろを振り返った。


そこには、変わらない理叶と光冴の姿が。



「……」



不意に、目が合った。2人とも目には驚きの色が見えた。


しかし、彼らは元からわたしに話しかけるつもりはなかったのか、軽く会釈して人ごみに消えていった。


どうしてあんな酷いことをされておいて、彼らが気になってしまったんだろう。


ただ、懐かしい後ろ姿を淡々と見つめていた。