北に龍がいるように、西には虎がいる。


覇王とは西雲会の若頭。


極道を支える、3つの柱のひとつの組織。



「西雲会の若頭も、荒瀬組を狙ってるんでしょう?
この好機に取り付かないわけがないって、噂に聞いたよ」



西雲会は最近では衰退したという話だったけど、彼らが極道だということに変わりはない。


虎視眈々とこの世界の頂点に返り咲くことを目論(もくろ)んでいるらしい。


だからわたしは彼らにとって格好の餌。




「夏に、極山が奇襲をかけたことでわたしの存在が明るみになったって。
いずれ西雲も動き出すぞって。
わたしがいることで荒瀬組に迷惑がかかるなら……っ」



迷惑がかかるなら捨てて、そう言おうとしたけど無理だった。


ねえ、志勇。どうしてそんなにまっすぐわたしを見るの?





「お前、本当に嘘つくの下手だな」




真剣な眼差しを向けられたと思えば、志勇はふっと笑って、抱きしめる手に力をこめた。



「嘘じゃない。わたしは、あなたのことを想って……」

「じゃあなんで震えてる」

「……え」



言われて見ると、志勇の肩にかけた自分の手は、小刻みに震えている。


しかたない。嘘は苦手なんだ。





「嘘つきにはお仕置きしてやろうか?」