「このマンション、表では13階は管理室って設定になってるから、ここに住民がいるなんて誰も知らねえ。
その証拠にマンションに住んでる住民に出くわしたことがないだろ」



かと思えば結構まじめな話だった。


確かにちょっと疑問に思っていたけど。



「……でも、わたしはてっきりそういう造りのマンションなのかなって」

「なら駐車場まで隔離する必要はねえだろ?」

「じゃあ、ここは何らかの目的があって造られたってこと?」

「ああ、その通りだ。このマンションは荒瀬組直参の組がバックについて経営している。
本家を離れて暮らす重鎮のために作られたのがこのフロアだ」

「へえ……なんだか隠れ家みたいだね」



なぜこのタイミングでマンションについて説明を与えられたかは分からないけど、こんなに近くで志勇と話せるってすごく幸せだって気づいた。


1週間病院のベットの上だったから余計そう感じてしまう。


会話を進めるわたしの声は弾んでいた。



「……やけにはしゃいでんな、壱華」



するとやはり彼は気づいたようで、わたしの肩に手を回してのぞいてできた。


急に目線を合わせられると、ドキッとして赤面してしまう。


いつまでも志勇に対する免疫は進歩してないけど、素直な気持ちを伝えることはできるようになった。





「だって昼間なのに志勇が家にいるし、二人きりだから嬉しいの」




好きな人と二人きりだから嬉しいなんて、言ってみれば平凡な喜び。


でも、普通の幸せを知らないわたしにとっては特別な歓びになる。






「壱華」



鼻の先にある、志勇の口が動く。


しかしそれはいつもの声音ではなかった。


例えるならば、本能をくすぶるような、甘い声。