「志勇、ここどこ?」



2日後、無事退院したわたしは来たことの無いビルの前に立っていた。


7階建てのビルで、ガラスは外から見えない仕様のものになっており、外壁は黒で統一され、明らかに異様な雰囲気を醸し出している。


もしやここは。



「荒瀬組の本部事務所だ。まだお前に案内してなかったろ」

「そうなんだ。あの……ところで志勇、自分で歩けるよ」



そんなことより志勇、どうしてさっきからドヤ顔でお姫様抱っこしてんの?


文句言いたいんだけど、その前に正面にそびえる重厚な造りの扉が開いた。


しまった遅かったと思い、扉の奥に進むと案の定——無言で頭を下げて並ぶ厳つい男性方が。


その後、人相の悪いおじさんたちの間をなんとか通り抜け、エレベーターに乗り込む。


到着を知らせるランプが光ったのは最上階である7階。



「お待ちしておりました」



開いた扉の先には、じゅうたんが敷かれた広いフロアの反対側に扉が3つ。


その内のひとつの前に立っている、ひとりの男性が優雅にお辞儀してきた。



「司水さん」

「ご無沙汰しております。気分はいかがですか?」

「はい、だいぶ楽になりました。ありがとうございま……志勇?」



そうして軽く挨拶を交わしていたつもりが、志勇の目にはあまりよろしくない感じに映ったようで。




「近えんだよ。壱華に寄るな」



わざとらしく司水さんに背を向けた。


何を言ってるんだか。


わたしを抱き上げて密着してる志勇の言うセリフじゃない。