SIDE 壱華



別に盗み聞きをするつもりじゃなかった。


志勇が出ていったあと、病室のドアがわずかに開いていたから、気になって閉めようとしただけ。


そしたら怒鳴り声が聞こえてきて、不安になって病室から出たら、遭遇してしまった。



秘密を守り抜こうとする帝王と、その秘密を暴こうとする彼の弟に。


彼らはわたしの声が耳に届くと同時と、体を強ばらせ言い争うことをやめた。


動きをとめた志勇と対照的に颯馬さんが勢いよく振り返る。


その表情には驚きと焦り、そして少しばかりの恐怖が張りついていた。



「……壱華、ちゃん?」



聞かれてはいけないことを聞かれてしまったと思っているのだろうか。


だけど大丈夫。


わたしは颯馬さんとの言葉の先を聞きたくなくて、志勇に声をかけたのだから。



「志勇」

「どうした、壱華」



平然を装ってわたしに手を伸ばす志勇。


ぎこちなく感じるその動きに合わせて、片腕を広げて優しく抱きつく。


胸に頭を密着させると彼の鼓動は少し速かった。



「ごめんね。やっぱり待てなかったの」

「そうか、悪かったな」

「ううん、勝手に出てきたわたしが悪い」



本当は志勇を待つことができなかったわけじゃない。


知りたくなかっただけ。


自分の秘密を知ってしまえばわたしは志勇のそばにいられなくなるかもしれない。



最近、彼に抱きしめられると一層それを感じるようになった。


知らなくていいことは知らないままで構わない。


だけどわたしがシンデレラだというのなら、魔法が解ける時間は必ず来てしまう。




そのときなんて───時計が12時を指すときなんて、一生来なければいいのに。