普段俺に歯向かうことのない颯馬がむき出しにした怒り。


それでも冷静でいられたのは、怒りの矛先が俺自身であったからだ。



「要はお前は怯えてんだな」

「違う、そうじゃない。俺は兄貴のことを考えて言ってんだ!」

「……」

「あの存在ひとつで何もかも変わる。
今は西雲が静観しているからいいものの、極山は本気であの子の命を狙ってくる。
理由もなく彼女を擁護(ようご)するんだったら身内も不審がるし、兄貴の立場だって危うくなる」

「上には俺から言い聞かせる。
これから荒瀬は壱華を守る側に回ると」

「そういうことを聞いてんじゃねえ!
それじゃ最初と話が違うじゃねえか。
ただ(はべ)らせておくだけなら、必要ねえだろうがあんな女!」

「……あ?」



だが、それが壱華に向けられたとならば別の話だ。


頭に血がのぼり颯馬をきつく睨みつけた。



「っ……元はといえば、俺たちには関係のない話だ。
厄介な荷物は向こうに引き渡せ」

「颯馬」



ふざけるな。



「はっ、北に渡すよりはマシだろ?
西は殺すようなことはしないだろうからな。
それはそれは丁重に扱うさ」

「……黙れ」



やっと見つけた唯一を誰に渡すか。



「黙らねえよ。どれだけ待ってやったと思ってる!
計画に対しての答えを先延ばしにして、挙げ句の果てがああだ。極山に殺されかけた。
それにこれはあの子のためでもある。

死なせたくないなら西に返せ!西雲に受け渡せ!」

「黙れ!」



激昂(げっこう)する颯馬。


その胸ぐらに手を伸ばす俺の腕。



「いいや言わせてもらう!兄貴は何も分かってねえ!
あの子は……」



口を慎まない颯馬にあと数センチで触れるというところで、それは突然という形で訪れる。






「……志勇?」