自然と目頭が熱を帯びる。


志勇が手を離すと、栓を抜かれたように下まぶたから、熱い涙が零れ落ちた。



「見え透いた嘘をついて騙せるとでも思っているのか。
お前の気持ちを察せないほど俺は馬鹿じゃねえ。
極山のあれっぽちの脅しでお前を手放すほど、俺の気持ちは脆くねえ」



複雑な感情が織り混ざって涙が止まらなくなる。


ただ怖かっただけなんだ。


志勇と過ごす日々がわたしにとってはこの上なく幸せだから、大きな不安を隠しきれなかったんだ。


あまりにも順風満帆だと未知の不安に襲われるから。


それに対処しきれず、こうして志勇を怒らせてしまうわたしは本当に情けない。


これはそんな涙でもあった。




「何度もこんなやり取りを繰り返した?
その度に俺の諦めの悪さを思い知ったろ」



悔しくて動く右腕で涙を拭き取る。


すると、痛くて動かない左腕に感触を覚える。


見ると、志勇は膝を立てて、手を握り、わたしと目線を同じにしていた。




「どうしても信じられないなら」




綺麗な目。


綺麗な手。


黒が似合う綺麗なその人は、触れるか触れないかの距離で優しく左腕を包み込んでこう言った。