「ほほ、お取り込み中失礼、よろしいですかな?」
2人の世界に入っていたら、同じ空間から独特な笑い声がした。
すると志勇がベッドの脇を触り、ウィーンと機械音を立てて背中が押され、起き上がる上半身。
このベッド、自動でリクライニングできるらしい。
「おはようございます相川様。
顔色はよろしいようですが、気分が悪いなどといった症状はありませんか」
機械音が止むと、話しかけてきたのは真っ白な白髪をこざっぱり整えた白衣の男性。
誰だろうこのおじいさん。
しわくちゃの顔に浮かぶ笑顔にはおじいちゃん特有の可愛らしさがある。だけどこの顔に見覚えはない。
「……えっと」
「おっと、申し遅れました。院長の鳥飼とりかいです。
以前若頭にお呼ばれした際、あなた様の担当をさせていただいた者です。覚えてはおりますか?」
あ、思い出した。この人、志勇に拾われて間もないころ、マンションを訪ねてきたお医者さんだ。
「あっ……はい。うろ覚えですけど、以前志勇の家に来て、診てくださったお医者様ですよね?
その節はお世話になりました」
「ほう……ほほ、覚えていらしたとは光栄です。
では、この棟の責任者を紹介してもよろしいでしょうか?
息子の拓海です」
すると鳥飼先生は、隣に立つ短い黒髪に黒縁メガネの男性を指した。
「鳥飼拓海です。
この棟の責任者に務めております。
何かありましたらなんなりとおっしゃってください。
よろしくお願いたします」
前へ出てきて挨拶をする彼は律儀な印象。
でも、ぱっと見合わせたとき、これまで向けられたことのない種類の視線を向けられて疑問に思った。
何かを探る冷静な目つき。猛禽類みたいに獲物を狙う鋭い目。
それでいて嫌悪も軽蔑もないから変な感じだ。
とりあえず悪い気はしないからこちらからも挨拶をしようとしたのに。
「おい、話は終わったはずだろ。壱華にしっぽ振ってる余裕があるならさっさと帰れ」
やけに言葉を荒くする志勇のせいで、場の雰囲気が一気に凍りついた。



