「お邪魔しました。また明日からお願いします」

「そんな丁寧に礼なんかしなくていいんだよ。
ほら、さっさと帰るぞ壱華」



帰り際、正門につながる石畳に並ぶ組員さんに別れの挨拶を告げていたら、しっかりと腰を抱いてわたしに密着してきた志勇。


最近何かにつけてボディタッチをする志勇は、人の目を気にしないみたいで、見送りにきた人に凝視していてもお構いなし。


そんなに欲求不満なのか、色気を放出する帝王に毎度飲み込まれそうになって収集がつかないし。



「若、最後にお伝えしたいことがあるのですが」



目も逸らせないで困っていると、並んでいた司水さんがタイミングよく助け舟を出してくれた。



「……至急の用か」

「ええ、今すぐ若に聞いていただきたい、良い話です。壱華様のことで」



それに思い切り顔をしかめる志勇だったけど、わたしの名前が出た瞬間ぱっとそちらに向き直った。


あれ、早く帰りたいんじゃなかったの?




「なんだ」



うきうきして司水さんの方へ進む志勇。



「兄貴……分かりやすい」



そんな帝王に渋い顔をしたのは、門の前に立って帰る準備満タンな颯馬さん。


剛さんがそばにいないので彼はもう車内にいると予測。


だったら、これ以上待たせたら申し訳ないな。



「志勇、先に車に乗っておくからね」

「ん、ああ、乗ってろ。へぇ……ククッ、そうか」



そう思い、待ちくたびれている颯馬さんと視線を送りあってわたしから一言。


なぜだろう。今までこんなことなかったのに、今日だけは早く家に帰りたかった。





原因不明な焦りを抱え、ふと見た夕陽は、赤く不気味に膨れ上がっていた。