SIDE 力


最近、俺の前でも笑うようになった壱華さん。


そのせいで俺は色々と困っている。



「へえー、あれが『シンデレラ』って娘かあ」

「お、(きん)さんご存じで?」

「あったりまえよ。あの若に女ができたなんて聞いたときにゃ、腰が抜けるほどたまげたもんだぜ」

「いやあ、確かにべっぴんですねえ。男臭い本家にも華が咲きますわ」



皆が敬愛する、姐さん以上に清廉された透明感のある笑み。


たまたま護衛に入った俺たちに差し入れを配る姿なんかは初めこそ疑ったが、おそらくあの人は本当に優しくて気が利く。


しかし完璧だから惹かれるのではなく、闇を抱えていてどこか儚げなところに、男は守りたいと思うんだろう。


嫌いになれるはずがねえ。



「力、ありゃあもしかすっと姐さんを越えるレベルに成長するかもしれねえぞ。楽しみにしとけ」



厨房の責任者、親父である金次郎は見た瞬間に受け入れちまうし。



「あらら?力ちゃん顔面がゆでダコみたいでっせ」

「うっせ、慶一(けいいち)。さっさと支度始めろよ」

「おー、照れてる照れてる。力が若頭の女にほの字だぞー」



俺より10も年上のくせしてガキ臭い料理人、慶一は俺をからかい出すし。


だいたい、あの笑顔で褒められて、照れねえようにする方が難しいだろ。