「逃げるな、待ってくれ」

「……い、や」



バイクに乗り、わたしを見るその相手を見たとたん、体が拒否反応を示した。


いつも見ていた綺麗な金髪、いつも聞いていた凛とした声。


漆黒の大きなバイクに(またが)る姿は憧れだった。


密かに想いを寄せていたその人。


……理叶。



「いやぁ!」

「壱華、待て!」



だけど今は、嫌悪と恐怖しか感じない。



「話を聞いてくれ!」




これ以上絶望に突き落とそうとしないで。


わたしは無我夢中で道路に飛び出した。


……走行中の車が、すぐ近くを走行しているとは知らず。




「壱華!」



遠くから聞こえる声、近くで警鐘(けいしょう)を鳴らすクラクション。


右を見れば、スローモーションのように迫り来る真っ黒の車。



あ、タクシー型のクラウンだ。珍しい。


そういえば叔父さん、車が大好きで詳しかったな。


わたしにたくさん教えてくれたっけ。


あの頃は、幸せだったなあ。




走馬灯のようなものが流れた直後、鈍い音に反し、鋭い衝撃が全身を襲った。