「怪我がなくて良かったっす。あのときは俺も焦りましたんで」

「すみません。本当に申し訳ない……」

「いや、俺もあのときは前方不注意でした。
まあ、あまりスピードを出してなかったとはいえ、ほぼ無傷なんて奇跡に近いっすよ。
一大事になることに比べりゃ、車体の傷くらいどうってことない」



すると剛さんの口から出た言葉に、わたしは感動してしまった。


亡くなられたお父さんの大切な車を破壊したっていうのに、わたしの体を心配してくれるなんて心が広い。


男の(かがみ)とはまさに彼のこと。



「ねえねえ壱華」



感無量になっていると、わたしの手を引く憂雅くん。



「おはなしおしまい?おしまいならかくれんぼしよう」

「かくれんぼ?」

「うん、あのね、壱華と遊びたいの」



かくれんぼ、か。正直遊んでる場合ではない気がするけど、それは単なるわたしのわがままだ。


憂雅くんが彼を連れてきてくれたのだから、お礼をしなくては。



「分かった。ちょっと待ってね」



そう言って、わたしは剛さんと向かい合った。



「剛さん」

「へい」

「今日は連れてきていただきてありがとうございました。
またわがまま言うかもしれませんけど、そのときは剛さんを頼ってもいいですか?」

「喜んで。こちらこそ、これからも若をよろしくお願いしやす」

「……え?」

「はい?」



側近の彼がわたしに『若をお願いします』?


驚いて軽く頭を下げた状態から顔だけ上げると、剛さんも同じくきょとんとした表情。


そのまま見つめあっていたらなんだか恥ずかしくなって、2人して照れて笑った。


だけど初めて正面から見た彼の笑顔は綺麗で、わたしを明るい気持ちにさせた。



「……壱華、いこう?」

「うん、ごめんね待たせちゃって。行こっか」



それから憂雅くんと手をつないで、剛さんとはその場で別れた。